離婚から一番遠い男
10日に行われた「スタジオDEカンパイ」とする忘年会が始まる3時間前、私は品川駅の改札口で待ち合わせの相手を探していました。やはり大学時代のクラスメートで、地元東京出身の彼とは25年ぶりの再会です。後ろを振り返ると衝立の向こうに彼がいるではないですか。「おい、なんだそこにいたのか」「やぁ久しぶり」25年前と変らない声にお互い笑みが浮かびます。再会の握手をするやいなや、2人は人混みにもまれながら緩やかな坂道を歩きます。「大分偉くなった?」私の問いかけに「もうヒラだよ」彼の笑いの混じった言葉は雑踏にかき消されて、よく聞こえないうちにレストランの扉の前に着いた私たち。中に入ると席が空いてなく待つことになったのですが、この間の会話がその日一番の衝撃となるのです。「俺、離婚したんだよ」彼は仕方なそうに切り出した自らの離婚話に信じられない思いの私は「俺にあってもお前には絶対にない話だ」「俺も自分でそう思っている」彼は戸惑った表情のまま遠い視線になります。言い出した方が奥さんと聞いて私は二度びっくり。店内は土曜の午後だからでしょうか、どの顔も楽しそうな会話が満ち溢れている中で、私たち2人はロダンになってしまいました。ほどなく店員に導かれた私たちは椅子に座ると顔を見合わせます。「メシ食ってないよね」「ウン、お前と一緒でいいよ。あとビール飲まない?」意外なリクエストです。「まだ午後3時だよ」「いいじゃん。俺はビールを飲むよ」そういう彼の大学時代を思い返してみるのですが、昼間からビールを飲むタイプではありません。きっと10年以上に及んだ夫婦の諍いの間に培われていったのでしょう。彼はロケットビル(日本電気本社ビルの通称)で仕事をしていた私たちのクラスの中でもエリートで、波瀾万丈とは縁遠い堅実な人生を歩む、離婚から一番遠い性格の男でした。「これからどうする?」「子供達も成人したし、もう新しい気持ちで生きていくつもりだ」その言葉に悔しさが滲んでいる事を私は見逃しません。「新しい出会いがあるかもよ」私の言葉には答えずにビールを飲み干すと「ギターまたやり始めたんだって?ブログ見たよ」彼は私のことを気にしてくれていたのです。「曲書き始めたのか?」「50過ぎて詩曲がスンナリ書けるか?」逆に問い直す私。お互いに頷くと、その後は大学時代のバンド話に花を咲かせたのですが、予定の時間を大きく過ぎます。「ゴメン、これから新宿で忘年会だ」「そうか、また会おうよ」店を出た私たちは駅に向かいます。会う前とは雲泥の差になった2人の足音は、駅の雑踏にかき消されていきます。「新郎新婦の入場です」彼の結婚披露宴が私の司会で行われたことも、今となっては話せない昔話になりました。大都会東京の刹那は今も昔もラビリンスなのです。
https://www.youtube.com/watch?v=gPvTqBWqYF4
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