幻の仕事「シネマ・トリロジー」
「第58回ブルーリボン賞」が26日発表されました。世に世界三大映画祭といわれる、ヴェネツィアとカンヌ、ベルリン国際映画祭はもう50年以上の老舗ですが、映画祭の目的とは何でしょうか。映画の振興と発展のため、同時代におけるすぐれた作品を顕彰し、広報すること。興行面での宣伝効果と、開催都市のイメージアップも含まれているそうです。放送コンテンツとして、転売や二次利用目的で買い付けに廻るディーラーたちの連絡所の一面もあるとの説明に、ある時期、よく映画配給会社に出入りしていたことを思い出しました。バブル後の94年は、マスコミ業界の仕事も世間と同じように潮が引いていくようにサーッと消えていった頃です。この私は自分の事務所を経営する立場でもあったので、好きな仕事ばかりしている訳にいきませんでした。営業にTV局や代理店を駆けずり回りますが、めぼしい仕事にありつけません。何度かの打ち合わせを繰り返しながら、やっと進行させることができたのは、新作映画の紹介ビデオを航空機内で上映する仕事でした。私を買ってくれていた広告代理店担当者のOさんは「ダメ元だからね」といいます。最悪な場合、企画フィーしか出ないことは百も承知でしたが、この仕事に賭けるしかありませんでした。配給会社側の素材提供は非常に協力的で、順調に制作されていきますが、80%仕上がっていたシネマ紹介ビデオは1本の電話で撤収の憂き目にあいます。「この仕事のどこに落ち度があるのでしょうか」編集スタジオ内で私は思わず叫びました。スタッフの空気が一変するのが背中越しにも分かりましたが、制作費を借りてまで敢行している私の気持ちはズタズタに切り裂かれます。業界でのドタキャンは良くあることですが、この時ほど広告ビジネスを恨んだ事はなかったでしょう。その後、幾度か同じ状況に遭遇しましたが、この時の経験が現在の私の人生にどれだけ役立っているかは火を見るより明らかです。
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