与えられた感覚
「今のところをもう一度やりたいんだけど」「オーバーラップは30から40フレが一般的ですが」「僕の呼吸を計ってくれる?」「ええ?」「息を吐く途中でキュー出すから」「はい」「この曲はOL秒数を統一したいんだよね」「わかりました」普通、ビデオでは映像の1秒は30フレームとして計算されます。映像技法のひとつである、オーバーラップ(
overlap)とは一つの画面が消えないうちに次の画面を薄く映し出し、次第にその画面を濃くして行く場面展開のことをいいます。こんな細かいやり取りは初めてのことに、私とコンビを組むYちゃんはちょっと躊躇った感じでしたが、注文に即応えてくれました。彼に合図して計ってもらった私の呼吸は45フレーム。「この曲全部45フレのOLでお願いね」音楽のトラックダウンでも同じようにリクエストする私。「位相がずれてない?ピアノはもう気持ち左側にほしい」位相とは音の波、波形のこと。多くの楽器が重なった際は、波形をズラしたりしながら
位相を整えることをいいます。音を整えるエンジニアにとってはやり難いだろうと思いましたが、頭のてっぺんからへその辺りまで「スーッ」と感覚が真っ直ぐこないとOKを出したくないのです。勿論エンジニアはプロですから、私より優秀なのですが、時々、意見が違う場合があります。「理論上、データ上は合っていますけど」「わかっているんだけど、どうもここに来ないんだよね」とへその辺りを指さすのです。「じゃあここを省きますよ」「御免、ちょっとやってみて」ループしながらプレイバックをお願いする私に対して、「データが崩れてもいいんですか?」「僕の感覚でいきたい」ここは譲れません。データ上合っていようが、自分の感覚を一番だと信じて仕事をしていました。今もたまにその映像や音楽をチェックするのですが、30代のあの頃と変わらない感覚にホッとするのです。ユーチューブで見ることができます。
https://www.youtube.com/watch?v=uwPeXsjhLRQ
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