弦楽四重奏の神髄
この私が作曲家の許でADをしていた1980年代。氏はバイオリニスト。本物の作曲家につくことで、心得を180度変えていただいた先生でもあります。この先生は同じ作曲家で指揮者の山本直純さんと師弟にあった方なのですが、エピソードを数限りなく教わりました。可笑しいことや、今ではあり得ない(法律的に)ことをスタジオワークしながらお話しするので、気が気ではない場面もありました。私は、とにかくその作曲家についてアシスタント的な仕事をするわけですが、以前にここで書いた、インペグが主な仕事でした。2時間のCMレコーディングが終わると、スタジオミュージシャンに演奏料を支払うのですが、業界では「トッパライ」と言う言葉で表現されていました。バイオリンの演奏家はたくさんいるので、手渡しでサインをもらうのが大変だった記憶があります。管楽器の演奏家の人たちは、弦楽家と違う雰囲気を感じたのもこのころです。件の作曲家氏は自分のカルテットも結成していました。「今度のADを紹介するけど、すぐ辞めるかもしれない」そんな程度に思っているのだとガッカリでしたが、現実そうなったので、ここでは割愛。氏自慢のその弦カル(弦楽四重奏の略)はほどなく、アルバムレコーディングします。私自身は真近でクラシックに接することが無かったので、弦楽器の音色の素晴らしさに感動しながらの仕事でした。昨年そのアルバムをiTunesで見つけた時は感慨深いものがありました。アナログ盤を持ってはいますが勿論、ダウンロードです。その作曲家氏と師弟関係にある山本直純さんの仕事先に、ひょんなことから譜面を持っていくだけの、今でいう「パシリ」をやらされた私。そんな他愛もないことが人の生き方を変えてしまうことも・・・。私が向かったのは渋谷NHKの音楽スタジオ。そこはドラマ「シャツの店」という鶴田浩二さん主演の劇伴のオーケストラのリハーサル中でした。担当者を見つけると「山本直純さんにこの譜面を渡してください」というと、「中に入って待っていろ」。仕方なくスタジオの隅にあった椅子に座った途端、「ババーンッ」!耳をつんざくほどの音とその圧力に腰が抜けるほど圧倒されたのです。あの音圧は今でも忘れません。休憩に入り、山本直純さんは私の前に現れると、分厚いメガネの奥から優しい目で「おう、わざわざありがとう、よろしく言っといてくれ」「はい、ありがとうございます」会話はこれだけでしたが、私のその後の音楽観に多大な影響を与えました。
コメント